なぜマネジメントの難易度は上がり続けるのか?「個」の時代をマネジメントするリーダーの教科書

はじめに:なぜ、私たちはこんなに苦しいのか
「プレイヤーとしては優秀だったのに、マネージャーになった途端に成果が出せなくなった」
「部下に良かれと思って言ったことが、ハラスメントだと受け取られないか怖い」
「自分の仕事で手一杯で、部下の育成なんて夢のまた夢…」
もしあなたが今、このような悩みを抱えているとしても、決して自分を責めないでください。断言します。令和の時代において、マネジメントの難易度は過去最高レベルに上昇しています。
かつては「背中を見て覚えろ」で通用した指導法も、今は「放置」と捉えられかねません。飲み会でのコミュニケーション(ノミュニケーション)も機能しづらくなりました。
人的資本経営が叫ばれ、企業が「人への投資」を加速させる一方で、現場のマネージャーには「成果」と「育成」と「ケア」の全てがのしかかっているのが現実ではないでしょうか。
本記事では、マネジメントの難易度を下げる解決策として、管理職の位置付けや業務整理、チーム成長させる方法を紹介します。
令和のマネジメントが「無理ゲー」化する理由
結論から言うと、令和のマネジメントが「無理ゲー」化している根本的な理由は、部下が会社に求めるものが「生活の安定(外発的動機)」から「心の充足(内発的動機)」へと高度化し、画一的な「正解」が通用しなくなったからです。
かつてのように「給料とポスト」を餌に、トップダウンで全員を同じ方向に走らせることはもはや不可能です。現代のマネージャーには、以下の2つの不可逆的な変化への対応が重くのしかかっています。
まずは、敵を知ることから始めましょう。なぜ、昭和・平成の成功体験が通用しないのでしょうか。
1. マズローの欲求5段階説で見る「働く動機」の変化

心理学者アブラハム・マズローの「欲求5段階説」をご存知でしょうか。人間の欲求をピラミッド状の5階層に分けた理論です。
- 生理的欲求(生きていくための衣食住)
- 安全の欲求(身の安全、雇用の安定)
- 社会的欲求(集団に属したい、愛されたい)
- 承認欲求(他者から認められたい、尊敬されたい)
- 自己実現の欲求(あるべき自分になりたい)
昭和・平成のマネジメント

かつては、終身雇用が「安全の欲求」を強力に満たしていました。会社に滅私奉公すれば、生活の安定が約束された時代です。マネジメントは「安全」を人質に、トップダウンで指示を出せば機能しました。
令和のマネジメント
現代の日本において、多くのビジネスパーソンにとって第2段階(安全欲求)までは「当たり前」の前提条件になっています。
今の部下たちが求めているのは、第3段階以上の「この組織に居場所はあるか(心理的安全性)」「自分の仕事は認められているか(承認)」「この仕事で自分は成長できるか(自己実現)」です。
つまり、令和のマネージャーは、部下の「心の充足」までケアしなければならなくなりました。給料やポストといった外発的な動機付けだけでなく、内発的な動機付け(やりがい、成長)を刺激しなければ、人は動かない時代なのです。
2. 多様化する価値観と「正解」の消失
かつては「昇進こそが成功」「24時間戦えますか」という単一の価値観が共有されていました。しかし今は違います。
- バリバリ働いて昇進したい人
- プライベートや副業を優先したい人(Work to Live)
- 社会的意義(パーパス)を重視するZ世代
同じチームに全く異なる価値観を持つメンバーが混在しています。全員に同じ言葉をかけても響きません。「対話による個別対応(1on1)」が必須スキルとなった背景はここにあります。
すべての土台となる「信頼」の正体
テクニック論に入る前に、マネジメントにおける「OS(オペレーティングシステム)」とも言える信頼関係について定義します。
「信頼関係が大事」とは誰もが言いますが、具体的にどうすれば信頼は高まるのでしょうか?
私は、信頼を以下の3要素の掛け算で定義しています。
信頼を構成する3要素

① 信憑性(Credibility)
「この人の言葉に嘘はないか?」
約束を守る、知ったかぶりをしない、ミスを素直に認める。「言行一致」が基本です。
② 論理性(Logic)
「この人の判断は筋が通っているか?」
感情や気分で指示を変えないこと。「なぜこの仕事が必要なのか」を、背景(Context)を含めて言語化できる能力です。
特にリモートワーク環境下では、「背中」が見えない分、言葉による論理的な説明責任がより一層求められます。
③ 共感性(Empathy)
「この人は私のことを理解しようとしてくれているか?」
実は、これが最も欠けやすく、かつ重要な要素です。「論理的に正しい指示」だけでは人は動きません。「大変そうだね」「その視点は面白いね」といった、相手の感情に寄り添う姿勢です。
参考:ハーバード・ビジネス・スクールのフランシス・フライ教授が提唱する「信頼のトライアングル(Authenticity/Logic/Empathy)」
信頼残高がマイナスになる瞬間
人間はストレスがかかると、この3要素を自ら破壊してしまいます。
- 忙しくて約束を忘れる(信憑性ダウン)
- 余裕がなく説明を省いて命令する(論理性ダウン)
- 部下の相談を「後にして」と遮る(共感性ダウン)
特に「共感性」の欠如は致命的です。Z世代や若手社員は、上の世代以上に「共感」を重視します。論理で相手を打ち負かす(論破する)上司は、令和においては「機能不全」と言っても過言ではありません。
プレイングマネージャーの罠からの脱出法
ここからは実践編です。多くのマネージャーが陥る「時間が足りない」問題。
「カッツモデル」という理論を用いて、あなたの現在地を確認しましょう。
1. カッツモデルで見る「求められるスキル」の変化

ロバート・カッツは、役職に応じて必要なスキルが変わると提唱しました。
- テクニカルスキル(業務遂行能力): 現場の業務をこなす力。
- ヒューマンスキル(対人関係能力): 人を動かす力。
- コンセプチュアルスキル(概念化能力): 本質を見抜き、全体を構想する力。
プレイヤー時代は「テクニカルスキル」が全てでした。しかし、マネージャー(特にミドルマネジメント)に求められるのは、テクニカルスキルの比重を下げ、ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルの比重を上げることです。
しかし、多くのプレイングマネージャーは、「自分がやった方が早い病」にかかり、テクニカルスキルの領域から抜け出せません。これが、チームの成長を止める最大の要因です。
2. 「緊急度×重要度」マトリクスで業務を仕分ける

業務を以下の4象限に分けてみてください。
- A:緊急かつ重要(トラブル対応、期限直前の仕事)
- B:緊急ではないが重要(部下の育成、仕組み作り、信頼構築)
- C:緊急だが重要ではない(多くの会議、突発的な電話、チャット返信)
- D:緊急でも重要でもない(無意味な付き合い、ネットサーフィン)
マネージャーが時間を投下すべきは「B:緊急ではないが重要」な領域です。
しかし、現実は「A」と「C」に忙殺されていませんか?
「B」をおろそかにすると、部下が育たずトラブルが増え、結果的に「A」の仕事が減らないという悪循環(ラットレース)に陥ります。
3. 明日からできる「任せる技術(デリゲーション)」

「仕事を任せるのが怖い」「教える時間がない」
その気持ちは痛いほど分かります。しかし、勇気を持って手放さなければ、あなたは一生忙しいままです。
いきなり全てを丸投げする必要はありません。以下の3ステップ・デリゲーションを試してみてください。
ステップ1:タスクの切り出し(Small Start)
仕事を「思考系(判断が必要)」と「作業系(手順が決まっている)」に分解します。まずは「作業系」の仕事から渡しましょう。
例:会議の進行役、議事録の作成、定例レポートの集計。
参考:【仕事と家庭の両立】時間が足りないあなたへ。人事のプロが教える「定時で帰る」ためのタイムマネジメント術
ステップ2:目的とゴールの共有(Why & What)
「これをやって」と作業だけを渡すのはNGです。
「なぜこの仕事が必要か(Why)」
「どんな状態になれば完了か(What)」を伝えます。
やり方(How)はある程度任せてみましょう。
ステップ3:6割の完成度でOKを出す(Psychological Safety)
最初から100点を求めてはいけません。修正が入ることを前提に、「まずは6割できたら持ってきて」と伝え、早めのフィードバックを行います。これにより、手戻りのリスクを減らし、部下の心理的負担も下げることができます。
「任せる」とは、仕事を押し付けることではありません。「失敗する権利」と「成長する機会」をプレゼントすることです。
【自己診断】マネジメント力チェックリスト
最後に、あなたの現在のマネジメント状態を客観視するためのチェックリストを用意しました。
すべてにチェックがつく必要はありません。「これはできていないな」と気づくだけで、大きな一歩です。
【人間関係・信頼構築】(Human Skills)
- ◻︎部下のフルネームを漢字で書ける。
- ◻︎ 部下の「業務外の関心事(趣味や家族構成など)」を一つ以上知っている。
- ◻︎ 部下の話を遮らず、最後まで聞き切ることができている。
- ◻︎ 自分のミスを認め、部下に謝ることができる。
- ◻︎「ありがとう」「助かった」と、感謝を言葉にして伝えている。
【目標共有・意味付け】(Conceptual Skills)
- ◻︎ チームの年間目標を、自分の言葉でメンバーに説明している。
- ◻︎「この仕事が誰の役に立つのか」を日常的に伝えている。
- ◻︎ 部下一人ひとりの「キャリアの目標」や「やりがい」を把握している。
- ◻︎ 評価の基準(フィードバック)が明確で、メンバーに共有されている。
【育成・任せる力】(Empowerment)
- ◻︎ 自分が不在でも、現場が回る仕組みができている。
- ◻︎「自分でやった方が早い」仕事を、あえて部下に任せたことがある。
- ◻︎ 部下の失敗を、チャレンジの結果として受け止めている。
- ◻︎ 週に一度は、業務連絡以外の対話(1on1など)の時間を持っている。
- ◻︎ 部下の成功を、自分のことのように喜べる。
まとめ:マネジメントとは「人」を大切にすること
令和のマネジメントは、テクニックやツールだけでどうにかなるものではありません。
しかし、難しく考えすぎる必要もありません。
究極的には、「目の前の部下を一人の人間として尊重し、関心を持つこと」。
これが全ての始まりであり、最も強力なマネジメント手法です。
AIが進化し、業務の効率化が進むこれからの時代だからこそ、人間にしかできない「心を通わせるマネジメント」の価値は高まり続けます。
まずは今日、部下に「おはよう、昨日は遅くまでありがとう」と、目を見て声をかけるところから始めてみませんか?
その小さな「信頼の積み重ね」が、いずれ最強のチームを作る土台となるはずです。

![A smiling manager and employee engaging in a 1on1 meeting in a modern office with a holographic AI interface. Text overlay reads: '[2026 Edition] 1on1 is the Best Investment: Human-centered management techniques for the AI era.](https://life-engagement.com/wp-content/uploads/2026/01/1on1meeting-human-centered-management-ai-era-320x180.jpg)




