はじめに

「期初に立てた目標、部下は覚えていますか?」

もし、あなたの部下が「えっと、売上◯◯万円でしたっけ…?」と、数字を答えるだけだとしたら、それは危険信号です。

SMARTの法則などで完璧な数値目標を立てても、部下の目が死んでいる。

ミーティングの空気は重く、目標達成に向けた自発的な動きが見られない。

なぜ、「完璧な目標」なのに人は動かないのでしょうか?

その最大の原因は、目標が**「ノルマ(強制されたもの)」**になっているからです。

心理学において、「やらされ仕事」はパフォーマンスを低下させるだけでなく、離職リスクを高めることがわかっています。

この記事では、最新の心理学(自己決定理論)をベースに、部下が自ら動きたくなる**「組織目標と個人目標の紐付け(アライメント)」**の技術を解説します。


1. なぜ「上から降りてきた目標」は失敗するのか?

「アメとムチ」の限界

多くの組織では、まだ「外発的動機づけ」に頼っています。

「達成したらボーナス(アメ)」「未達なら評価を下げる(ムチ)」というやり方です。

これは単純作業には効果がありますが、現代のクリエイティブな仕事や複雑な課題解決においては、むしろパフォーマンスを下げることが研究で明らかになっています。

人は「監視されている」「コントロールされている」と感じた瞬間、視野が狭くなり、柔軟な発想ができなくなるのです。

脳は「強制」を拒絶する

人間には生まれつき「自分の行動を自分で決めたい」という欲求があります。

どれだけ正当な数値目標であっても、上司から一方的に「これをやれ」と押し付けられた瞬間、脳はそれを「義務(他人事)」と認識します。

結果、部下の関心は「どうやって目標を達成するか」ではなく、「どうやって怒られずに済ませるか」にすり替わってしまうのです。


2. 働きがいを生む「3つの心理的欲求」とは?

では、どうすれば「やらされ感」を消せるのでしょうか?

心理学者のデシとライアンが提唱した「自己決定理論」によると、人が仕事に没頭し、幸福感を感じるためには、以下の3つの欲求が満たされている必要があります。

💡 人が自ら動くための3つのスイッチ
  1. 自律性(Autonomy): 「自分で決めた」という感覚。自分の意思でコントロールできている状態。
  2. 有能感(Competence): 「自分にはできる」「成長している」という感覚。強みが活かされている状態。
  3. 関係性(Relatedness): 「誰かの役に立っている」「チームと繋がっている」という感覚。

優れたマネージャーは、目標設定のプロセスを通じて、この3つを巧みに満たしています。


3. 実践!「やらされ感」を消す目標の握り方(3ステップ)

明日からの1on1や面談で使える、具体的な3つのステップ(会話例)をご紹介します。

ステップ1:「数字」ではなく「課題」で合意する(関係性へのアプローチ)

いきなり数字の話をするのはやめましょう。まずは「なぜやるのか」という課題認識を共有し、パートナーとしての関係を作ります。

  • ❌ NG例:「来月の目標は売上100万円だ。必達で頼むよ」(一方的な命令=関係性の欠如)
  • ⭕ OK例:「今、顧客満足度が下がっているのがチームの課題なんだ。これを解決すれば、結果的に売上もついてくると思うんだけど、どう思う?」(課題の共有=関係性の構築)

ステップ2:達成プロセス(How)は部下に任せる(自律性へのアプローチ)

登る山(ゴール)は上司と合意しますが、登り方(ルート)は部下に決めさせます。「どうやれば達成できそう?」と問いかけ、部下の口からプランを言わせることで「自己決定」させます。

  • ⭕ OK例:「この課題を解決するために、Aさんはどんなアプローチが良いと思う? Aさんのやりやすい方法で構わないから、案を聞かせてほしい」

ステップ3:強みをどう活かすか「意味付け」する(有能感へのアプローチ)

組織目標の達成が、会社のためだけでなく、個人のキャリアや成長にどう繋がるかを「翻訳」して伝えます。

  • ⭕ OK例:「このプロジェクトは難しいけれど、Aさんの得意な『分析力』が一番活きる仕事だと思う。これを達成できれば、将来希望していたマーケティング職への説得力ある実績になるはずだ」

4. よくある失敗と回避策(Q&A)

Q. とはいえ、会社からの強制的なノルマがある場合は?

A. 「翻訳」して渡すのが上司の仕事です。

会社から降りてきた数字を、そのまま「会社が言ってるからやれ」と渡すのは郵便配達員と同じです。

「会社はこの数字を求めている。厳しい数字だが、私はチームとして『業界No.1のサービスを作る』ために、この資金が必要だと解釈している」

このように、リーダー自身の「解釈」や「想い」を乗せて伝えることで、部下の納得感は変わります。

Q. 部下が目標を低く設定しようとする場合は?

A. 心理的安全性が低い証拠です。

部下が低い目標を出してくるのは、「失敗したら責められる」「評価が下がる」と恐れているからです。

「チャレンジした結果の失敗は評価に響かない」「高い目標に挑む姿勢自体を評価する」というルールを明確にし、ストレッチ目標への恐怖を取り除きましょう。


まとめ:マネジメントとは「環境設計」である

目標設定(アライメント)の本質は、部下をコントロールすることではありません。

部下の**「自律性・有能感・関係性」が満たされるように、仕事の意味や環境をコーディネートすること**です。

  1. 一方的に数字を押し付けていないか?(自律性)
  2. その仕事で部下は成長を感じられるか?(有能感)
  3. 誰のためにやるのか腹落ちしているか?(関係性)

次の面談では、ぜひこの視点で「この目標について、率直にどう思う?」と問いかけてみてください。「やらされ仕事」が「自分のプロジェクト」に変わる瞬間が、必ず訪れるはずです。