エンゲージメント

【組織力底上げ】エンゲージメントサーベイ実施成功事例×実運用から得た運用術公開

「大型スクリーンにエンゲージメントスコアのゲージやグラフが表示され、チームメンバー数名がその画面を見ながら議論している様子」

「日本企業は、エンゲージメントの高い従業員比率が極めて低い!」「5%しか存在せず、125カ国で最低レベル!」というGallup社の調査を元に、「日本の従業員のエンゲージメントを上げよう!」という流れが強まっている

また、『労働経済の分析』厚労省(2018)、『経営労務政策特別委員会報告』経団連(2020)においても、エンゲージメントの重要性が強調されている。

ただ、そもそも西欧諸国と日本とでは雇用制度が異なるために、本当に日本企業に即したものになっているかは不明であり、低スコアの背景には、日本の従業員の回答時のバイアス(=ポジティブな感情の表現を抑制する傾向)等の影響もあるとされる。

上記の背景を踏まえ、日本全体のマクロな話も大切だが、ミクロな観点で必要性や実施方法を伝えた方が有益と思い、本記事を書いた。

1. エンゲージメントサーベイの全体像

エンゲージメントサーベイとは、社員が仕事や組織にどれだけ「やりがい」や「帰属感」を持っているかを定量的に測る調査です。得られたデータをもとに、組織の課題を可視化し、具体的な施策を講じるためのスタート地点となります。

1-1. 従業員エンゲージメントとは

「従業員エンゲージメント(以下、エンゲージメント)」は、社員が自発的に仕事に取り組むモチベーションの高さや、組織に対する愛着度を示す指標です。高いエンゲージメントは離職率低下や生産性向上と相関し、Gallup社の調査では、エンゲージメントが高いチームは収益性が23%増、従業員の幸福度が70%前後で推移したと報告されています

参考:Gallup社の調査

1-2. なぜ今エンゲージメントが注目されるのか

近年、働き方改革やリモートワークの普及で社員の心理的距離が広がり、意外と「孤独感」や「不満」が見えにくくなっています。厚生労働省の調査でも、メンタルヘルス不調による休職者数は年々増加傾向にあり、組織として早期に問題を察知し、解決策として、出社を求める企業が増えている。

とはいえ、出社すればエンゲージメントが上がり、生産性が向上するほど単純ではない。だからこそ、最低でも定量的な組織の状態を図ることで、今まで感じていた肌感を数値として見ていく必要がある。

数値は改善策や理想実現の根拠となる。働きやすい環境づくりの第一歩になることから、良い環境であっても組織は水物であるため、実施することをオススメする。

2. サーベイ実施前の準備ステップ

サーベイを成功させるには、事前準備が要です。目的を明確に整理し、期待する成果をKPIに落とし込むことで、調査設計からフォロー体制まで一貫した運用が可能になります。

2-1. 目的とKPIの明確化

まずは「なぜエンゲージメントサーベイを実施するのか」を言語化しましょう。

上記は組織で見られる課題例を挙げています。

理想がなければ、課題として認識できないので、組織において理想を明確化する必要が生まれます。理想と現実の差分を解消するための施策検討にあたり、現在の組織状態をエンゲージメントサーベイで測ります

定量的な数値から、今後の目標となるKPI設定に移ります。

KPI設定のコツとしては、目標値を今の数値から段階的に3〜5%高い設定することです。組織全体として変化を実感するためには、相対的に数値の低いチームを中心に施策を実行するのがオススメです。

2-2. 対象範囲とスケジュール策定

部署別・職位別で集計することで、細かな課題が見えやすくなります。全社→部門→チームを把握にするため、回答内容に、所属や役職、性別などの属性情報を入れることが必要です。

回答期間は、10営業日程度を目安に、実施すると回答率が向上します。回答率は、周知の頻度も大切ですが、必要性や変わるかも!という期待感が必要です。
そのようなことも踏まえ、発信していくことが大切です。

2-3. 質問項目の作り方

設問は大きく「クローズド(8段階評価など)」と「オープン(自由記述)」の2種類あります。

  • クローズド:傾向を数値化しやすい。
  • オープン:社員の本音や具体的なエピソードが集まり、施策設計に有効。
    「上司のサポート体制に満足していますか?(1〜5)」のように簡潔な文言を心がけて。

質問の方向性は、改革したい内容を軸に決めていくよいでしょう。

軸とは、組織のMVVやパーパス、目標として組織で示されているものが当たります。また、職場で感じている課題と目標を合わせることで、改革の軸が見えてきます。

事例として、目標などの働きがい、働く環境、組織風土や雰囲気のコミュニケーションなどの組織ごとの柱を位置付けた方が、項目の検討の軸として取り組めます

3. 実施プロセスと運用ノウハウ

社内広報やフォローを怠ると回答率が下がります。そもそも取り組みを知らない、知っても意義や必要性を理解しないため、必要と感じない。普通に目の前のことで手一杯で回答できずで、回答率が上がりません。

エンゲージメントサーベイの取り組みから、効果的だったノウハウはお伝えします。

3-1. キックオフ&イントラ広報術

社長や部門長から「なぜ今サーベイが重要か」をイントラネットやチャットツールで、メッセージとして伝えることが大切です。特にトップからのメッセージは本気度が伝わりやすく、結果を踏まえ変わっていくことを周知できれば、回答率UPが期待できます。

大切なことは、リーダーが本気で一緒に変わろうとする気持ちを伝え、変えていくきっかけとして気持ちを聞かせてほしいと伝えることです。

3-2. 回答フォローとリマインド

サーベイ実施について、定期的に周知をすることが大切です。例えば、開始7日目と最終日前日にフォローメールを送信。件名に「【あと3日】」「【回答締切り間近】」と明記するだけで、回答率が向上します。

3-3. データ回収から集計まで

結果の収集は、GoogleフォームやMicrosoft Formsなどの無料で使えるツールの他、有料で機能が充実したツールでも、集計したい精度により利用を検討するのが良いでしょう。

✅ 無料で使えるアンケート集計・分析ツール(制限あり)

ツール名特徴無料プランの制限
Google フォームGoogleアカウントがあればすぐに使える。リアルタイム集計・グラフ化・Googleスプレッドシート連携が可能。回答数・設問数ともに無制限。ただし高度な分析機能はなし。
Microsoft FormsMicrosoft 365ユーザー向け。Excelとの連携がスムーズで、社内アンケートに最適。回答数200件/フォームまで(無料アカウント)。
Questant(クエスタント)マクロミル提供。テンプレートが豊富で、条件分岐やロジック設定も可能。質問数10問、回答数100件まで。CSVダウンロード不可。

💼 有料のアンケート集計・分析ツール(高機能)

ツール名特徴料金プラン(目安)
SurveyMonkey世界的に有名なツール。テンプレート・分析機能・多言語対応が充実。月額5,500円〜(個人プラン)
QiQUMO(キクモ)日本語特化。クロス集計・トレンド分析・レポート出力が強力。回答数に応じて従量課金(例:1回答10円〜)
WEBCAS formulator官公庁や大企業でも導入。セキュリティ・デザイン自由度・分析機能が高水準。月額11,000円〜(1ヶ月単位で契約可能)

4. 分析&アクションプラン策定

調査結果を公表してからが組織改革の第一歩です。課題を分解し具体策に落とし込み、実行・検証までつなげる過程を大切にしましょう。

エンゲージメントサーベイ(従業員の意欲や満足度を測るアンケート)は、実施して終わりではありません。 むしろ、結果をどう読み解き、どんな行動につなげるかが、組織改革の成否を分けるポイントです。

4-1. 全体と部門ごとの数値比較

まずは、サーベイ結果の「全体平均」と「部門別スコア」を比較してみましょう。

このように比較することで、

  • どの部門に課題があるのか
  • どの部門の取り組みが効果を上げているのか

が一目でわかり、原因分析のスタートラインになります。

さらに、年ごとのスコア推移を追うことで、施策の効果検証も可能になります。

4-2. クロス集計による課題抽出

次に、属性別(部署×年代、役職×性別など)にクロス集計を行いましょう。 例えば、以下のような傾向が見えてくることがあります:

  • 「20代の営業職」で“キャリア不安”が高い
  • 「開発部のマネージャー層」で“上司との信頼関係”が低い

このように、全体では見えなかった“局所的な課題”が浮かび上がります。 また、複数の部門に共通する課題があれば、全社的な改善テーマとして設定することもできます。

4-3. アクションプラン立案のフレームワーク

KPT(Keep, Problem, Try)や、SMART目標を使い、「いつまでに」「誰が」「何をやるか」を具体化することで、課題を明確化しアクションプランの整理します。

ここでは、以下の2つのフレームワークが有効です。

✅ KPTフレームワーク

  • Keep(続けること):うまくいっている取り組み
  • Problem(課題):改善が必要な点
  • Try(試すこと):新たに取り組むアイデア

例えば、「1on1面談の頻度が少ない」という課題があれば、

  • Keep:面談でのフィードバック文化
  • Problem:実施頻度のばらつき
  • Try:月1回の定例化+面談ガイドの配布 といった形で整理できます。

✅ SMART目標

  • Specific(具体的)
  • Measurable(測定可能)
  • Achievable(達成可能)
  • Relevant(関連性がある)
  • Time-bound(期限がある)

事例としては、「心理的安全性スコアを、3か月後までに70点→75点に引き上げる」 → そのために「週1回のチーム対話タイムを導入」など、行動に落とし込むことが重要です。

テキストに書き起こすことが大切です。

5. 成功事例で学ぶベストプラクティス

組織のエンゲージメントサーベイ(従業員の仕事に対する意欲や満足度を測るアンケート)を活用し、実際に成果を上げた企業の取り組みを紹介します。成功要因と落とし穴を整理することで、自社の改革に役立つヒントになるかもしれません。

5-1. A社の組織改革

A社は年に2回のサーベイと、部門長との定例1on1面談を組み合わせて実施しました。 サーベイ結果は集計後すぐに部門長に共有し、面談で「今抱えている課題」と「次のアクション」を明確化。これにより、半年間で離職率が20%減少しました。

成功要因
  • フィードバックの即時性:サーベイ後1週間以内に面談を実施
  • 部門長の巻き込み:全長が同じフォーマットの面談ログを記録
  • 透明性の確保:施策の進捗を全社ポータルで見える化
注意すべき落とし穴
  • 面談の質が均一化しない:経験の浅い部門長に対し、面談トレーニングが必要
  • サーベイ頻度の向上だけで満足せず、結果を「次の手」に必ずつなげることが重要

5-2. B社のカルチャー醸成

従業員30名規模のB社では、サーベイ実施の翌週に全社ワークショップを開催。社員がチームごとに課題を洗い出し、解決策をブレストにまとめるなどの事例です。

成果データ
  • エンゲージメントスコアが3ヶ月で+15ポイント(42→57)
  • 同期間の離職率が2.0%→1.4%に低下
  • 業務生産性(売上/人時)が7%向上
成功要因
  • 「タイムリーな対話」:サーベイ後1週間以内に全社で顔を合わせる機会を設けた
  • 「全員参加型」:立場に関係なく自由に意見を出せる安心感
  • 「小さく試す」:3つの改善アイデアに絞り、短期間で実行と振り返りを繰り返した
注意すべき落とし穴
  • アイデアの数だけでは効果が上がらない:実行・モニタリングの仕組みづくりが必須
  • リソース不足:ワークショップ後のフォローアップを専任で担当する人材が必要

5-3. 導入企業インタビューのポイント

サーベイを自社流にカスタマイズする際は、先行企業の「つまずき」「試行錯誤した施策」「今後の展望」を情報共有すると失敗を避けやすくなります。取材は対面でもメールインタビューでも取材先の意向に応じましょう。

取材項目例
  1. 導入前の課題:アンケートを始めるきっかけ
  2. 初期のつまずき:回答率の低さやデータ活用の壁
  3. 改善策の試行錯誤:実際にトライした施策と結果
  4. 次のステップ:次回サーベイで注力したいテーマ
保管すべき情報
  • インタビュー実施日・方法、回答者の役職・部署
  • 質問ごとの要約と引用メモ
  • 定量データ(エンゲージメントスコア、離職率など)

6. 継続的に強化する運用術

一度エンゲージメント向上の施策で成果が出ても、時間が経つと元に戻りやすいのが人の心理です。 そのため、サーベイを「一度きりのイベント」で終わらせず、継続的に運用する仕組みを整えましょう

6-1. 定期レビューとKPI再設定

サーベイやパルスサーベイを実施したタイミングで、成果を振り返り「次に達成すべき数値」を設定し直します。

再設定の具体的な手順例
  1. サーベイ回答締め切り後1週間以内に集計を完了
  2. 部門ごとの前年比較グラフを作成
  3. マネジメント層と全社でレビュー会議を開催
  4. 改善項目ごとにKPI(組織風土(風通し等)離職率、eNPS、業務生産性など)を再設定

こうした半期・四半期のサイクルで目標を更新することで、「前回やったまま」の停滞を防ぎ、短期的かつ継続的な改善が可能になります。

6-2. フィードバック文化の醸成

サーベイ結果を部門横断の場で定期的に共有し、社員同士が自由に意見交換できる仕組みをつくります。

推奨される体制づくり
  • 全社定例ミーティングで結果概要を共有
  • 各部門から代表者を選び「改革チーム」を編成
  • 毎月1回、進捗報告と追加アイデア出しの機会を設置
  • 社内SNSやポータルで「今週のフィードバック」を定期発信

こうした対話の場が習慣化すると、「サーベイ結果の開示→意見交換→施策実行→再開示」という好循環が生まれ、フィードバック文化が組織風土へと定着します。

信頼されるリーダーとは、単に業績を求めるのではなく、メンバー一人ひとりを大切にし、共に成長していく存在です。愛を持って接することで、より強く、温かいチームが生まれるでしょう。

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7. まとめ

エンゲージメントサーベイは「始まり」にすぎません。得られたデータを起点に継続的に改善を重ねることで、社員の働きがいを高め、組織力を底上げします。

今日から始める3つのチェックリスト
  1. 調査目的とKPIを明文化
  2. スケジュールと告知プランを策定
  3. 回答フォロー体制を整備

エンゲージメントサーベイに否定的な意見や気持ちが出てしまうのは、現状維持バイアスや回答後のフォロー、変わりそうな実感が不足しているからです。

本記事では今までの経験と情報を整理した内容です。一つでも組織が良い方向に向く情報提供となっていれば幸いです。

ABOUT ME
やし
1000人規模の組織で、経営戦略やDX、HR部門など経験。人間の持つ性質や心理学をもとにして、働き方改革や組織基盤を改革する業務に従事。学んだことを発信しています。