【1on1で使える実践心理学】スキルはあるのに動かない部下…上司ができる「心のOS」アップデート術

導入:なぜ、正論だけでは部下は変わらないのか
「彼はスキルも高いし、地頭もいい。でも、なぜかあと一歩踏み込めない」
「失敗するとすぐに落ち込んでしまい、そこから立ち直るのに時間がかかる」
「言われたことは完璧にやるが、自分から動こうとしない」
マネージャーとして日々メンバーと向き合う中で、このようなもどかしさを感じることはないでしょうか。
業務スキル(Excel、プログラミング、営業トークなど)の不足であれば、研修やOJTで教えることができます。これらは、前回の記事でお伝えした通り「アプリ」の問題だからです。
しかし、意欲、粘り強さ、レジリエンス(回復力)といった「マインド」の問題となると、途端に指導が難しくなります。「もっと気合を入れろ」と言えばパワハラになりかねず、「自信を持って」と励ましても響かない。
結局、「あいつは性格的に向いていないのかも……」と諦めてしまっていませんか?
ちょっと待ってください。
最新の心理学や脳科学の知見によれば、大人の「心のOS(非認知能力)」は、適切な介入によってアップデート可能です。そして、そのきっかけを作れるのは、毎日接している上司であるあなたです。
本記事では、精神論ではなく、認知行動療法や行動経済学などの理論に基づいた「部下の心のOSを書き換える技術」を解説します。次回の1on1から使える具体的なフレーズも紹介しますので、ぜひ持ち帰ってください。
1. 思考のバグを修正する「デバッグ・フィードバック」
部下が仕事でミスをした時、あるいは困難な課題に直面した時、心のOSが「フリーズ」してしまうことがあります。これは多くの場合、部下の頭の中で**「認知の歪み(Cognitive Distortions)」**起きていることが原因です。
認知の歪みとは、物事を極端に悪く捉えてしまう思考のクセのこと。心理学の「認知行動療法(CBT)」で扱われる概念ですが、これをマネジメントに応用することで、部下の思考のバグ(エラー)を取り除くことができます。
よくある「思考のバグ」と対処法
部下の言葉の端々に、こんなバグ潜んでいませんか?
- 過度の一般化: 「今回失敗した。だから自分はいつもダメなんだ」
- 白黒思考: 「目標100%未達だった。95%達成でも0点と同じだ」
- 読心術(心の読みすぎ): 「上司があの時ため息をついた。きっと私に失望しているに違いない」
こうした思考に陥っている部下に、「次は頑張ろう」と励ましても効果は薄いです。必要なのは、事実と解釈を切り分ける「デバッグ」です。
参考:よくある認知の歪み
1on1で使える「問いかけ」の技術
部下のネガティブな発言に対し、以下のように問いかけてみてください。
NGな対応(感情に寄り添いすぎる、または否定する):
部下「もう私は営業に向いてないと思います…」
上司「そんなこと言うなよ、頑張れよ!」(根性論)
上司「まあ、元気出しなよ」(一時的な慰め)
OKな対応(思考の枠組みを修正する):
部下「もう私は営業に向いてないと思います…」
上司「そう感じてしまっているんだね。ちなみに、**『向いていない』と判断した具体的な根拠(事実)**は何かな?」
部下「今月、A社の案件を失注してしまったからです」
上司「なるほど。A社の失注=営業全体の不適正、と捉えているわけだね。では、**逆に過去うまくいった事例や、今継続できている案件という『例外』**はないかな?」
このように、「反証」を探させる問いかけを行うことで、部下は「あ、すべてがダメなわけじゃないんだ」と客観的な視点(メタ認知)を取り戻します。これが、心のOSを安定させる第一歩です。
2. 可能性を閉ざさない「Yet(まだ)」の魔法
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱する「成長マインドセット」をご存知でしょうか。「人間の能力は努力次第で伸ばせる」と信じる思考様式のことです。逆に「能力は生まれつき決まっている」と考えるのを「硬直マインドセット」と呼びます。
非認知能力が高い部下は、成長マインドセットを持っています。
では、どうすれば部下にこのマインドセットをインストールできるのか。最も簡単で強力なツールが**「Yet(まだ)」**という言葉です。
「できない」を「まだできていない」に書き換える
部下が「私にはこのプロジェクトを回すリーダーシップがありません」と言ったとします。
これは「現在」の状態を「永続的な能力不足」として固定化する発言です。
ここで上司は、すかさずこう返してください。
「リーダーシップがない、のではない。『まだ(Yet)』発揮するコツを掴んでいないだけだ」
たった一言、「まだ」を加えるだけで、脳は「今はできないが、未来にはできるようになる」という成長のタイムラインを認識し始めます。
フィードバックの語彙を変える
日々の評価フィードバックも、結果(才能)ではなくプロセス(努力・工夫)に焦点を当てることで、部下のGRIT(やり抜く力)を強化できます。
- × 結果褒め: 「契約取れたのか! さすが頭がいいな」
- → 失敗した時「自分は頭が悪いからだ」と折れやすくなる。
- 〇 プロセス褒め: 「契約取れたのか! 断られても粘り強く提案資料を修正し続けたプロセスが素晴らしかったよ」
- → 失敗しても「やり方を変えればいい」と立ち直れるようになる。
部下の「心のOS」は、上司の言葉がけというコードによって、毎日少しずつ書き換えられているのです。
「成長マインドセット」について、動画で詳しく知りたい方はこちら
3. 「頑張らなくても成果が出る」環境デザイン(ナッジ理論)
ここまで「対話」によるアプローチをお伝えしましたが、最も効率的なのは**「個人の資質に頼らず、自然と望ましい行動がとれる環境」**を作ってしまうことです。
行動経済学における「ナッジ(そっと後押しする)」の理論をチーム運営に応用しましょう。
非認知能力の中でも、チームワークに不可欠な「協調性」や「誠実性」は、仕組みで引き出すことができます。
意志力を使わせない仕組みづくり
- 「感謝」の自動化:
- 協調性を高めたいなら、「もっと仲良くしろ」と言うよりも、Slackなどで「感謝チャンネル」を作り、**「会議の最後に必ず一人に感謝を伝える」というルール(デフォルト設定)**を導入します。やるのが当たり前の環境になれば、内気な部下でも自然と「他者への配慮」というOSが鍛えられます。
- 「小さな成功」の可視化:
- GRIT(やり抜く力)が弱い部下には、遠すぎるゴールを見せるのではなく、進捗を可視化するグラフを用意し、「毎日シールを貼る」ような単純な達成感を提供します。「進んでいる感覚」こそが、次の行動への燃料になるからです。
「あの人の性格を変えよう」と思うと苦しいですが、「あの人が動きやすい舞台装置を作ろう」と考えれば、マネージャーの腕の見せ所になります。
参考:Google re:Work – 「効果的なチームとは何か」
まとめ:マネージャーは「OSの開発者」である
部下の育成において、「スキルは教えられるが、マインドは変えられない」というのは、一昔前の常識です。
- 認知の歪みをデバッグし(CBT的アプローチ)
- 「Yet」で未来への可能性を示し(成長マインドセット)
- 自然と動ける環境をデザインする(ナッジ理論)
この3つのアプローチ(足場かけ)を行うことで、部下の「心のOS」は着実にバージョンアップしていきます。
すぐに劇的な変化は起きないかもしれません。しかし、バグが出るたびに根気強くデバッグに付き合い、小さな成長を見逃さずにフィードバックを続けるあなたの姿勢こそが、部下にとっての「心理的安全性」となり、最強のOSアップデートプログラムとなるはずです。
次回の1on1では、部下の「できない」という言葉に、そっと「まだ(Yet)」を付け足すところから始めてみませんか?
次のアクションのご提案
本記事で紹介したテクニックをさらに深掘りしたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。より詳細な手法を解説しています。
- 【組織力の向上】1on1ミーティングは必要ない?チームの生産性が向上した事例と具体的な手法を紹介
- 【基礎知識】 人生の成功を左右するのはIQではない?注目の「非認知能力」とは何か、なぜ今ビジネスで求められるのか
また、次回の記事では**「【採用編】面接で見抜く! 履歴書には書かれない『GRIT人材』の発掘質問集」**をお届けする予定です。お楽しみに。
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「スキルはあるのに動かない」部下の育成、諦めていませんか?実は大人の「心のOS(非認知能力)」はアップデート可能です。認知行動療法やナッジ理論を応用し、1on1ですぐ使える「思考のバグ」修正法やフィードバック術を解説。精神論ではなく科学的なアプローチで、部下の成長スイッチを押す方法をお伝えします。







